「ほっ」と。キャンペーン

取材先のすぐそばが神社だったので
帰りにそこで、ちょっと水を飲みながら休憩。

ふとみると、桃らしきものが落ちている。
なんでこんなところに桃?

と、視線を上に上げると、木に桃がいくつも生っていた。
「へ〜!」と、見ていたら、思い出した。

その昔、忙しくも日々楽しく働いていた会社員時代。
上司が撮影用の桃を必死で探していた。
私は、そんな様子を聞くとはなし、見るとはなし、
見聞きしていた。

ある日、「豆子〜、撮影終わったから、この桃あげるよ。食べて」
と、上司が桃を包みにくるんで大事そうに私にくれた。

新宿Tや、あちこちに電話していたのを知っていた私は、
わざわざ取り寄せた桃を、撮影後とはいえ「くれる」というので
大感激でいただいた。

週末に彼と食べようと、冷蔵庫で冷やしていた。

さあ、待ちに待った土曜。うちに遊びに来た彼に
「桃があるんだよ〜、食べよう食べよう!」

私は大事に冷蔵庫から出した。
包みから出した桃は、日が経っている割にはきれいで
「おいしそ〜!」
水道で洗い、皿に載せ、果物ナイフを持って、
「さあ、切るわよ〜!」

桃にナイフをあてた。そおっと。

でも、切れない。

冷蔵庫で冷やしていたから固いんだと思った。

ナイフを縦に刺してみた。ナイフが入らない。

「冷やし過ぎたかな」と思った。

「ねえ、切ってくれる?」

彼に渡す・・・すると。

「これって、ニセモノじゃん」

うそー!

そんなはずない! そんなはずない!

「うそだー! 新宿Tに電話してたもん!」

もう一回ナイフをあててみたが、刃は一ミリもその皮を切ってはくれなかった。

虚脱感。


あの虚脱感は、十年以上たった今も、忘れられない記憶になっている。

大切に持ち帰り、冷蔵庫にいれ、水道で洗い、ナイフをたてた私


涙ものだった。


悔しくってならなかった私は、上司に電話せずにはいられなかった。

上司は留守、電話は留守電になった。

「おいしい桃を、ありがとうございました」



留守電を聞いた上司も涙したそうだ。


もちろん「笑い過ぎの涙」だが。



彼女は、今も、この話を思い出しては、腹を抱えて笑っている。
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